スープストックトーキョーの自宅用!プレゼントに最適!

暗い夜にはスープが良い。
その夜も、分厚い雲がわれわれの街を覆っていた。
マフラーを首元に巻き付け、さながら太った鳥のような姿で、寒風に耐えながら自宅へ向かった。
 
僕がその日にこなしたのは、実に簡単な仕事だった。
二度ほど女に右頬を張られればそれで終いだった。
おかげで顔の左半分が綺麗に見えた。
どんなときも良い面を見るのが大人というものだ。
 
依頼主はタイトなスーツに身を包んだ若い男だった。
開口一番に別れたい女がいると言った。
男が左手の薬指にはめた指輪は、嵐の前触れの暗雲みたいに暗く光っていた。
「相手は奥様ですか?」と僕は言った。
「違う」と男は答えた。「五年愛人関係だった女だ」
「正直にあなたのことをクズと言わせていただいてもよろしいかな」
「かまいませんよ、仕事柄、罵倒されるのは慣れています」
報酬はキャッシュで100万円。その場で手渡しだった。
「リッチですね」と僕は言った。
「色々な人たちに罵倒されながら稼いだ金です、お気になさらずに」
 
家に戻ると僕はまっさきにキッチンで湯を沸かした。
そして、スープストックトーキョーのかぼちゃのスープを作り、石窯パンをかじった。
窓の外ではすべてを凍てつかせる冬の風が吹き荒れていた。
かぼちゃの甘みが体の芯を一層あたためてくれた。
噛み応えのある石窯パンはスープによくあった。
こんな夜ほど、スープとパンに限る。
この街に吹く冷たい風に、大切なこころを奪われないためにも。